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【研究成果】Belle II が世界最大のΥ(4S)のデータを蓄積 – より精密な測定で標準模型を超える新物理の探求へ

2026.06.05
研究成果
Belle II 測定器 © Belle II Collaboration / KEK

名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)フレーバー物理学国際研究センター(FlaP)のセンター長の飯嶋徹さんらが参画するBelle II 実験グループは、2025年5月17日に、世界最大のB中間子データセットを蓄積するという大きな節目を迎えました。この成果は、前身であるBelle実験の記録を塗り替えるものです。電子と陽電子が衝突して対消滅する「クリーンな」反応(余計な粒子が少ない反応)を利用することで、これまでの素粒子の標準模型では説明できない新しい物理現象の兆候を、より高い精度で探ることが可能になります。実験グループは今後、さらなるデータ蓄積と装置の改良を進め、宇宙の謎を解き明かす素粒子物理学の新たな時代を切り拓こうとしています。

詳しくはKEKのプレスリリースをご覧ください。

宇宙の謎を解く鍵:「標準模型」を超える未知の物理の探求

Belle II 実験の主な研究対象は「フレーバー物理学」と呼ばれる分野で、クォークやレプトンといった粒子の種類(フレーバー)ごとのふるまい、とくに崩壊の仕方を詳しく調べる研究です。現在の素粒子物理学の基本的な枠組みである「標準模型」は多くの現象を説明できますが、暗黒物質の正体など、説明できない謎も残されています。Belle II 実験では、粒子の極めて稀な崩壊を精密に測定することで、未知の粒子や力の手がかりを探っています。
前身のBelle実験(1999年〜2010年)は、粒子と反粒子のふるまいの違いを示す「CP対称性の破れ」を実証し、小林誠博士・益川敏英博士の2008年ノーベル物理学賞受賞に大きく貢献しました。こうした稀な現象を観測するには、非常に大量のデータが必要です。Belle II 実験では、電子と陽電子の衝突点におけるビームサイズをナノメートル程度まで絞り込む「ナノビーム方式」を採用し、世界最高レベルのルミノシティ(衝突頻度)の実現を目指して、2019年から運転を続けてきました。

困難を克服し達成した世界記録:Belleの2.5倍を超える性能

今回の記録更新は、SuperKEKB加速器とBelle II 測定器の精密な調整を地道に積み重ねてきた成果です。これまで安定運転を妨げていた原因不明の「突発的なビーム消失現象」などの課題を克服し、高出力で持続的な運転が可能になりました。
2026年3月19日には、瞬間ルミノシティ(単位時間あたりの衝突頻度)が5.2 × 1034 cm-2s-1 の世界新記録を達成しました。これはBelle実験の約2.5倍にあたります。ルミノシティが高いほど、多くの衝突が起こり、効率よくデータを集めることができます。2026年6月4日時点で、Υ(4S)(ウプシロン4S)共鳴でのデータ蓄積量は 757 fb-1(インバース・フェムトバーン)に達し、Belle実験の記録(711 fb-1)を上回りました。データの蓄積速度も、平均して当時の約3倍まで向上しています。

Belle II におけるY(4S)および全データセットの蓄積量の推移 © Belle II Collaboration / KEK

究極の目標「50 ab-1」へ:未知の物理現象の発見を目指す時代

世界最大のデータセットを手に入れたことで、Belle II実験は本格的な「精密測定の時代」へと突入しました。今後は、蓄積されたデータを詳細に解析し、ニュートリノを含む崩壊過程などを通じて、新しい物理の兆候を探ります。
次の目標は、総積分ルミノシティ 1 ab-1(インバース・アトバーン; = 1000 fb-1)の達成です。さらに、最終的にはBelle実験の約50倍にあたる 50 ab-1 のデータ蓄積を目指しています。そのため、2032年頃には加速器および測定器の大規模アップグレードも計画されています。

世界最大のY(4S)データセット蓄積を喜ぶSuperKEKBとBelle II の研究者たち © Belle II Collaboration / KEK

名古屋大学の貢献:TOPカウンターによる粒子識別

名古屋大学大学院理学研究科 高エネルギー素粒子物理学研究室(N研)は、Belle II 測定器の粒子識別装置である「TOPカウンター」の開発・建設・運用を手がけてきました。この検出器は、パイ中間子やK中間子といった性質の近い粒子の種類を正確に識別する重要な役割を担っており、Belle II 実験において高い性能を発揮しています。過酷な放射線環境でも安定して稼働し、世界最大規模のデータを高精度で取得することに大きく貢献しました。さらに、加速器の性能向上を果たすために必要な放射線モニターの開発や、加速器制御部の改良にも貢献してきました。

2016年にTOPカウンターをインストールしたとき

研究者コメント

KMIフレーバー物理学国際研究センター准教授・居波賢二さん

過酷な状況を乗り越え、測定器や加速器の運転・調整に努力をしてきた結果、過去の実験を超えるデータ量が取得できました。まだまだ運転は続きますが、この世界最大量のデータを用いて、新しい物理を探索していきます。」

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