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【研究成果】XENONnT実験での低エネルギー太陽ニュートリノによる電子散乱事象の初観測

2026.09.01
研究成果
太陽の核融合反応で生成されたニュートリノがXENONnT検出器内で電子と散乱する様子の概念図。左下のグラフは太陽ニュートリノのエネルギースペクトルで、低エネルギー側に最も多く到来するのがppニュートリノです。太陽由来のppニュートリノとは、太陽内部で2つの陽子(proton; 記号p)が核融合を起こし、重水素と陽電子が生成される際に放出される電子ニュートリノです。放出されたppニュートリノは太陽中心部から地球へ伝播し、その一部がXENONnT検出器内部の電子を反跳させることで検出されます。太陽内部ではさまざまな核融合反応がニュートリノを生成しますが、なかでもppニュートリノは、太陽の主たるエネルギー生成反応で生じるため放出量が最も多くなっています。(画像提供:XENONコラボレーション)

リリース機関

  • XENONコラボレーション
  • 名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)
  • 名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)
  • 神戸大学大学院理学研究科
  • 東京科学大学理学院
  • 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)
  • 東京大学宇宙線研究所(ICRR)

本文

名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)、名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)、神戸大学、東京科学大学理学院、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)、東京大学宇宙線研究所が参加する、米国・欧州・日本を中心とした国際共同実験XENONコラボレーションは、現在稼働している暗黒物質探索実験であるXENONnT(ゼノンエヌトン)実験において、太陽で生成された低エネルギーのニュートリノと電子の散乱をはじめて観測しました。

太陽での核融合によって生成されたニュートリノは、太陽から放出される粒子の中で最も数の多いもののひとつです。地球に到達する数は1平方センチメートルあたり毎秒数百億個以上に上りますが、地球上のあらゆる物質とほとんど相互作用することなく通り抜けてしまいます。そのため、ニュートリノの検出には多くの実験的な工夫が必要です。

2026年8月31日、XENONコラボレーションは、イタリアのINFN Laboratori Nazionali del Gran Sasso(LNGS)で開催されたセミナーにおいて、XENONnT検出器内で電子と散乱する低エネルギー太陽ニュートリノの初観測を発表しました。この測定により、直接観測可能なニュートリノのエネルギー領域の下限値が約17 keVまで引き下げられました。これは、これまでに直接観測されたニュートリノとして最も低いエネルギーに相当します。検出された信号は、太陽の核融合のエネルギー源である陽子-陽子融合反応で生成されるニュートリノ(ppニュートリノ)によるものが主体となっています。

XENONnT実験は、未発見の粒子と考えられている銀河の暗黒物質の直接検出を目指した観測を行っています。その中核をなすのは、5.9トンの超高純度液体キセノンを封入した二相式キセノン検出器で、粒子がキセノン標的と相互作用した際に発生する微弱な光や電離信号を検出します。検出器はイタリア、グラン・サッソの地下1400メートルの岩盤の下に設置され、宇宙線由来のミューオンや中性子を識別・排除する水チェレンコフ検出器に囲まれています。

低エネルギー領域でこのような微弱なニュートリノ信号を素粒子物理学で発見の基準とされる5σ(シグマ)の統計的有意度で検出するためには、ニュートリノ以外の事象(バックグラウンド事象)をこれまでにないほど低いレベルまで抑える必要がありました。最大の課題は、検出器材料から湧き出してくる微量の放射性ラドンによるものです。長年にわたり、XENONコラボレーションは、徹底的な材料選別と、キセノンからラドンを継続的に除去する専用のオンライン極低温蒸留システムを通じて、このバックグラウンドを抑制する技術を開発してきました。これらの技術的進歩は、他のバックグラウンド低減技術や高度なデータ解析戦略と相まって、低エネルギー太陽ニュートリノによって生成される微弱な信号を検出することを可能にしました。

この低エネルギー太陽ニュートリノの観測は、岐阜県飛騨市神岡町の地下実験施設で推進された大型の液体キセノン検出器を用いるXMASS実験が目標としてきた研究課題の一つです。日本から参加している研究者の多くは、XMASS実験の研究理念と技術を受け継いでいます。特筆すべき点は、その中の若手研究者が発見に至るデータ解析を主導し、本成果の達成に大きく貢献したことです。

今回の成果により、XENONnTが対象とする科学研究の幅はさらに広がりました。XENONnTは、2024年に高エネルギー太陽ニュートリノと原子核の散乱を観測しており、今回は新たに、低エネルギー太陽ニュートリノと電子の散乱を捉えました。これにより、本来の目的である暗黒物質探索を進めながら、同じ検出器を用いて性質の異なるニュートリノ反応を観測できることが実証されました。XENONnTは、極稀な低エネルギー粒子反応を捉える世界最高感度の観測装置の一つとして、ニュートリノ物理学においても重要な役割を担いつつあります。

今回の測定は、LNGSで長年にわたり積み重ねられてきた太陽ニュートリノ研究の系譜に連なる成果でもあります。GALLEX/GNOは、放射化学的手法を用いて低エネルギー太陽ニュートリノのフラックスを初めて測定しました。その後、Borexinoは335 keVのニュートリノエネルギー閾値を実現し、太陽ニュートリノ事象をリアルタイムで測定する道を切り開きました。XENONnTはこれらの成果を受け継ぎ、太陽ニュートリノを直接観測できるエネルギー領域を17 keVまで押し広げました。

今回の成果は、極めてまれな粒子反応を捉える技術が、暗黒物質探索にとどまらず、幅広い物理研究を切り拓く可能性を示すものです。XENONnTの建設・運用を通じて培われた高感度の検出技術は、次世代の大型液体キセノン検出器を実現するための基盤となります。国際共同実験として計画されているXLZD実験の検出器は、XENONnTよりも1桁大きいターゲット質量を有し、世界最高感度での暗黒物質の探索を可能とするとともに、低エネルギー太陽ニュートリノの精密観測も目指しており、ニュートリノ物理学やその他の極稀事象の研究に新たな可能性を切り拓くものです。

「今回の低エネルギー太陽ニュートリノの観測は、暗黒物質の探索による技術的進歩が、宇宙へのまったく新しい窓を開いたことを示しています」と、コロンビア大学の教授であり、XENONコラボレーションの研究代表者であるエレナ・アプリーレ氏は述べました。さらに、「これは、もともと自然界で最も稀な相互作用を観測するために開発された技術が、今や当初の科学的目標をはるかに超えた問題への挑戦を可能にしていることを示しています。」と述べました。

※日本グループのXENON1TおよびXENONnT実験に関わる活動は、日本学術振興会・科学研究費助成事業 (23H00104, 24H00223, 24H02240, 24K00659, 24K23938, 24KK0067, 24H00223, 25H00628)、同研究拠点形成事業(JPJSCCA20200002)、およびJST創発的研究支援事業(JPMJFR212Q)の支援を受け行われています。

XENONプロジェクトの詳細については、https://xenonexperiment.orgをご覧ください。


名古屋大学の貢献

名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)・名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)の研究グループは、XENONnT実験に中核的なグループとして長年にわたり取り組んできました。今回の観測は、岐阜県飛騨市神岡町の地下実験施設で進められた大型液体キセノン検出器によるXMASS実験が目標としてきた研究課題の一つでもあり、日本から参加する研究者の多くは、XMASS実験の研究理念と技術を受け継いでいます。

太陽ニュートリノがつくる信号はごく弱いため、それ以外の原因で生じるバックグラウンド事象を一つひとつ洗い出し、どれだけ混ざっているかを精密に見積もらなければなりません。この解析で中心的な役割を果たしたのが、ISEEの小林雅俊特任助教です。小林特任助教は今回の成果の解析責任者を務め、地道な作業を積み重ねて初観測の確証に至るデータ解析を、国際共同研究グループのなかで主導しました。


研究者のコメント

学生時代から20年以上にわたり、液体キセノンを用いた稀事象探索に携わってきました。暗黒物質探索のために磨いてきた極低バックグラウンド技術が、太陽ニュートリノの観測という新たな物理成果につながったことを、感慨深く思います。今後は、この技術を次世代のXLZD実験へと発展させ、これまでの経験を活かして、暗黒物質の発見とニュートリノ物理学のさらなる展開につなげていきたいと考えています。

山下雅樹(名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)・名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE) 教授・研究代表者/XENONコラボレーション運営委員会議長)

XENONnT実験の重要な目標の一つだった低エネルギー太陽ニュートリノの観測を、ようやく報告することができました。本成果は、ラドン濃度の低減をはじめとしてXENONnT実験がこれまで開発してきた極低バックグラウンド技術の賜物であり、私自身も解析責任者として貢献できたことを大変うれしく思います。XENONnT実験は現在、検出器の改修とデータ取得に向けた試験を進めており、感度の向上した検出器を用いて、引き続き暗黒物質の探索やニュートリノの性質の解明といった物理研究に取り組んでいきます。

小林雅俊(名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE) 特任助教/XENONnT実験の解析責任者)


論文情報

  • タイトル: First Measurement of Solar Neutrinos through Elastic Neutrino-Electron Scattering at the keV Scale
  • 著者: XENONコラボレーション(E. Aprile ほか)
  • プレプリント: arXiv:2608.29450 [hep-ex](2026年8月29日投稿)
  • DOI: 10.48550/arXiv.2608.29450

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