名古屋大学 素粒子宇宙起源研究機構(KMI)

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第5回:トップクォークの質量、ヒッグス粒子の質量(2014年3月)

『2012年7月4日にヒッグス粒子の発見に関する発表が行われました。126[GeV]と軽い質量で。』 KMIの深野秀徳研究員が、トップクォークとヒッグス粒子の質量についてお話下さいました。

ー ヒッズス粒子の質量は、深野さんの予想より軽かったのですか?

 はい、当初は、300〜400[GeV]あたりだと思っていました。
 この予想について話す前に、 素粒子標準模型に登場する粒子たちについて考えてみましょう。素粒子のうちで物質を作っている粒子、クォークとレプトンはフェルミオン、相互作用を伝える粒子はボゾンと分類されます。 フェルミオン2つでボゾンを作れますが、ボゾンからフェルミオンを作ることはできません。ですから、フェルミオンの方がボゾンより、より基本的な粒子だと感じます。ヒッグス粒子はボゾンですが物質を作っている粒子でも相互作用を伝える粒子でもありません。 そこで、ボゾンであるヒッグス粒子は素粒子ではなく、フェルミオンの複合粒子だと考えるのが自然ではないでしょうか。

 ところで、図1をみると、トップクォーク、ヒッグス粒子、Wボゾン、Zボゾンが同じくらいの質量で、ひと塊に見えてきませんか?

図1:物質を作る粒子(レプトン:e、νe、μ、νμ、τ、ντ、クォーク:u、d、c、s、t、b)、 力を媒介する粒子(Wボゾン、Zボゾン)、最近発見されたヒッグス粒子の質量の大きさを高さで表すグラフ。 トップクォーク(tで表示)他のクォーク・レプトンに比べ極端に重く、Wボゾン、Zボゾン、ヒッグス粒子と同じくらいの質量。また、クォークは、アップ(u)とダウン(d)、チャーム(c)とストレンジ(s)、トップ(t)とボトム(b)が組になっていて、第1世代、第2世代、第3世代と呼ばれる。

ー 確かに、クォークの中でトップクォークだけ極端に重いのですね...

 大学4年生のときから、なぜ、トップクォークの質量だけが他のクォークに比べて極端に重いのか。トップクォークは他のクォークとは違い、なにか特別な役割を果たしているいるのではないかと感じていました。 ですから、トップクォーク凝縮模型(ヒッグス粒子がトップクォークとトップクォークの反粒子のペアであると考える模型)に出会いったときは、これだ! と、ピンと来ました。しかし、トップクォーク凝縮模型では、WボゾンとZボゾンの質量でトップクォークの質量は決まり、600[GeV]と実際の175[GeV]の3倍ほどになってしまいます。
 そこで、実際のトップクォークの質量を再現するために、トップ・シーソー模型が考えられていました。

ー シーソー? 公園にあるシーソーですか?

 そうです。重い粒子同士をシーソーのようにバランスさせて、実際のトップクォークの質量175[GeV]を再現します。

ー どのくらい重い粒子ですか?

 質量1~2[TeV]=1000~2000[GeV]のトップクォークのパートナーを、トップクォークの質量を説明するために導入します。(質量の関係は図2に示す)

図2:実際のトップクォークの質量、トップ凝縮模型で予想されるトップクォークの質量、
そしてトップ・シーソー模型で導入するトップクォークのパートナーの質量の関係。

これで、実際のトップクォークの質量が再現されます。

 さて、ヒッグス粒子に戻りましょう。先ほどお話した、トップクォーク凝縮模型やトップ・シーソー模型では、ヒッグス粒子はトップクォークとトップクォークの反粒子のペアだと考えていたので、ヒッグス粒子の質量がトップクォークの2倍程度になります。

 しかし、質量126[GeV]でヒッグス粒子が見つかってしまいました。トップクォークの質量は175[GeV]なので、その2倍になっていません。
重いトップクォーク2つから軽いヒッグス粒子が作られているとは考え難いので、トップクォークより軽いヒッグス粒子の発見で、トップクォーク凝縮模型はダメか... と。

 ところが、トップ・シーソー模型で導入したトップクォークのパートナーを、第3世代のクォークの組に入れ、トップとボトムとトップクォークのパートナーの3つのクォークで1組をなしている模型を考えてみると光明が見えてきました。この模型では、 南部ゴールドストーン粒子という粒子が出てきます。南部ゴールドストーン粒子としてヒッグス粒子に相当する粒子が2つ、それとは別にヒッグス粒子に性質の似た粒子が1つでてきました。2つのヒッグス粒子のうち1つの粒子の質量は1[TeV]以上と決まりますが、もう1つのヒッグス粒子には質量の制限がありませんでした。こちらを、LHCで見つかったヒッグス粒子と考えれば良かったのです。 そしてヒッグス粒子に似た粒子の予想質量は300[GeV]以上。今後、LHC実験で見つかる可能性があります。

ー 実験で見つかったら、トップクォークの重い質量の説明もはっきりするんですね。

 疑問が解けた。と、言いたいところですが、新しいトップ・シーソー模型での新しい相互作用やトップクォークのパートナーを導入しているので、 今度はその起源の理論を考える必要があります。

KMI 深野秀徳 研究員 2008ノーベル賞展示室にて

参考文献

[1] トップクォーク凝縮模型 : Miransky,Tanabashi,Yamawaki, Phys.Lett.B221,177(1989); Mod.Phys.Lett.A4,1043(1989)
[2] トップシーソー模型: Dobrescu,Hill, Phys.Rev.Lett 81, 2634(1998), Chivukula,Dobrescu,Georgi,Hill, Phys.Rev.D59,075003(1999)
[3] トップシーソー模型での軽いヒッグス: Fukano,Kurachi,Matsuzaki,Yamawaki arXiv:1311.6629, Fukano,Matsuzaki arXiv: 1401.6292

専門家向けセミナーサイトにスライドがあります。 (文:素粒子宇宙起源研究機構広報室 木村久美子)