名古屋大学 素粒子宇宙起源研究機構(KMI)

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第2回:「すざく」が捉えた低質量X線連星系の新たな素顔 - 中間光度 LMXBs?(2013年8月)

 低質量X線連星系(LMXBs:Low-Mass X-ray Binary)を中心に研究されているKMI時空構造起源部門天体観測グループの森英之特任助教にお話をうかがいました。

ー 低質量X線連星系とはなんですか?

図1:低質量X線連星系(LMXBs)の想像図

 LMXBsとは、高密度天体(中性子星やブラックホール)の周りを太陽くらい質量の小さな恒星(伴星)が回っていて、その間に『降着円盤』があるような連星系です。伴星は可視光でも見えますが、高密度天体はX線で見つかることが多いので、X線天体と呼ばれます。
 物質が発する光というのは、発する物質の温度を表しています。例えば人間からは赤外線が、太陽(5000度)からは可視光が放射されています。X線は数百万度以上の物質からの放射です。

キーワードは『降着円盤』

 X線でみているのは、高密度天体そのものではなく、高密度天体の周りの降着円盤です。伴星からのガスは高密度天体の重力に引き寄せられ、高密度天体の周りをぐるぐるぐるぐる回って円盤構造を作ります。これを『降着円盤』と呼びます。降着円盤内部のガスの密度は高密度天体に近づくにつれて大きくなり、摩擦によってエネルギーを失い、高密度天体に落ちていきます。この時、摩擦で発生する熱は数百万度にも達するので、X線で輝いてみえます。

 ブラックホール本体は光すら脱出できない天体ですが、その周りの降着円盤はX線で観測できます。逆に言えば、X線で明るく輝く降着円盤が見えれば、その中心にはブラックホールや中性子星のような高密度天体があることになります。LMXBsを探す意義はここにあります。

 X線観測は、可視光での観測と大きな違いがあります。X線は地球大気で吸収されやすいので、気球やロケット、人工衛星での観測が必要です。今、運用中の主なX線人工衛星として、日本の「すざく」、アメリカの「チャンドラ」、ヨーロッパの「XMM-ニュートン」があります。

 ところで、理由はよくわかっていませんが、LMXBsは、明るさが急激に6桁から7桁も変わります。このX線の明るさの変化は、今の所、降着円盤の状態の変化として説明しようと試みられています。

図2:高密度天体と降着円盤の距離、コロナ(ガスの薄い層。ポツポツ描かれてる)の関係は、明るさとともに図のように変化しているのではないかと考えられている。

 今現在、LMXBsは我々の銀河系内に全部で150個ほど観測されています。しかし、中間光度状態「Intermediate State」ととても明るい状態「Very High State」は、ほとんど観測されていません。

 私は、観測例が極めて少なく、1~2個の候補しかない中間光度状態のLMXBsを10年近く探してきました。

ー 中間光度のLMXBsは、なぜ見つかってないのでしょうか?

 理論的に降着円盤が安定して存在できるのは「High State」と「Low State」だけではないかと言われています。では、もし中間状態が見つかったならば、「High State」と「Low State」をつなぐ移行期間なのか? それとも本当に不安定で全く作れないのか? と、興味は尽きません。

ー 具体的にどのように探していらっしゃるのですか?

 1990年に打ち上げられた天文衛星ROSATが、初めてX線望遠鏡を利用した撮像観測によって、X線での全天サーベイを成し遂げました。ここで6000個以上のX線源を見つけています。 (ちなみにROSAT衛星は2011年に運用を終えて大気圏再突入した時にずいぶんニュースになりました。)

図3:ROSATによる全天サーベイ。図中、色のついた部分がX線源に対応。

 6000個のX線源のうち、まだ、正体が何であるかわかっていないものも多く存在します。今の観測で測れるのは、見た目の明るさのみで、距離は測れません。同じ明るさの天体を観測した場合、遠ければ暗く、近ければ明るく見えます。ROSAT衛星が見つけた正体不明のX線源の中のいくつかは、銀河の中心部分(銀河系バルジ)にあると仮定したときに、明るさが中間光度のLMXBsと同じになるのです。バルジは、ROSATの全天サーベイの図3で、中央白○で囲った部分です。

図4:我々の銀河から離れた場所にあるM104銀河(ソンブレロ銀河)を例に。こちらも、バルジは点線で囲った部分。

 LMXBsは、10億年以上の年齢を持つと言われています。バルジには、古い天体がたくさんあり、LMXBs が作られ易い環境です。そこでバジル内で候補になる明るさのX線源を、X線天文衛星で観測してもらいます。

ー ROSATの全天サーベイで正体不明だったX線源で、「すざく」や「チャンドラ」での観測で、LMXBsはみつかったのですか?

 みつかりました。


すざくでの観測で、中間光度のLMXBs発見か!?

図5:今回、中間光度のLMXBであるとわかった天体のX線画像
(「すざく」に搭載されているX線CCDカメラで撮影)

図6:図5の天体を「すざく」で観測したX線スペクトルのグラフ。縦軸は強さを表す。

ー たったこれだけのデータで、中間光度のLMXBsであることが、わかるのですか!?

 わかります。天体までの距離がまだ確実ではないのですが、光度は2×1035erg s-1になりました。(図2参照)

 観測で得られるデータは、「チャンドラ」のX線画像や「すざく」のX線スペクトルなど、限られています。

 X線天文学とは、限られたデータから、想像力たくましく天体で起こっている物理現象を捉える、という面もあります。モデルを考えてデータと比べ、うまくデータを再現できればそのモデルは正しいだろう、正しくなければまた違うモデルを考える、の繰り返しです。最初に示した降着円盤の想像図にしても、誰も実際に降着円盤そのものを見たことはありません。長年さまざまな衛星で得られた観測データと突き合わせ、ほぼ間違いなく正しいだろうと思われているだけです。とは言え、ここで考えているモデルは、比較的シンプルです。降着円盤モデルもそうですが、大学生レベルの物理を組み合わせて十分理解できます。

 観測機器の発展で、新しい観測データが出てくると、説が変わってしまうこともあります。X線天文衛星が進化している今、X線天文学も、まさに進化しています。

ー 壮大な世界ですね! これからも、中間光度のLMXBsを探されるのですか?

 いままでは、主に、中間光度のLMXBsの研究をして来ました。最近は特に中性子星を持つLMXBsに興味を持ちつつあります。中性子星はブラックホールのように事象の地平線を持たないので、一般相対論と素粒子論に支配された極限状態を直接見ることができる天体だからです。しかし、中性子星と言ってもさまざまなタイプがあり、まだまだわからないことだらけなので、多くの中性子星のサンプルを見つけたいと思っています。


森英之特任助教
(KMI時空構造起源部門天体観測グループ)

 そのために、それぞれの人工衛星の特性を生かして研究を進めて行きます。今までに、「すざく」で5個、「チャンドラ」で11個の天体の観測提案が通り、中間光度のLMXBsの発見につながりました。来年度にはまた観測提案が通り、「チャンドラ」でさらに5個観測してもらえることなりました。今後も、美しいスペクトルが取れる「すざく」での観測はスペクトルでの判定に用い、「チャンドラ」では分解能を生かしてLMXBsの正確な位置をつきとめ、さらに地上から伴星の観測を。X線だけの観測では限界があるので、他の波長での観測もしていきたいと考え、南アフリカ赤外線観測所IRSFで、赤外線での伴星の観測も始めています。伴星の光度曲線を調べることにより、連星系の軌道が推定できます。軌道が分かれば、後はケプラーの法則を使うことで高密度天体の質量などがわかります。

 また別の話になりますが、ブラックホールや中性子星は強い重力場によって周囲の時空を歪めるため、その近くで放射された光は重力赤方偏移が起こります。「すざく」での明るいLMXBsの観測で、重力赤方偏移よって広がった輝線が見つかっており、ここから実際に、中性子星の「質量」と「半径」の比がわかります。中性子星の質量は、その内部構造を反映すると言われています。しかし 1cm3 あたり 10億 t にも達すると想像されている中性子星の内部構造はよくわかっておらず、さまざまなモデルが提唱されています。広がった鉄輝線の観測からわかる質量と半径の比は、理論で提唱されているモデルに制限をつけることができる、新たな観測量として注目されつつあります。
この広がった鉄輝線の観測は、2015年打ち上げ予定の次期X線天文衛星ASTRO-Hによって精度が格段に向上すると期待されています。我々はASTRO-Hに搭載する観測機器の開発も行っています。

 とにかくたくさんの中性子星をみつけ、いろいろな種類、いろいろな進化過程の中性子星を調べていきたいです。

 今開発している機器を使ってASTRO-Hがいずれ多くのデータを集めてくれると期待しています。

図の出典
図 1 NASA, Exotic Innards of a Neutron Star Revealed in a Series of Explosions
図 2 Esin et al., Advection-dominated Accretion and the Spectral States of Black Hole X-Ray Binaries: Application to Nova MUSCAE 1991 Advection-dominated Accretion and the Spectral States of Black Hole X-Ray Binaries: Application to Nova MUSCAE 1991, Astrophysical Journal v.489, p.865 Figure 1
図 3 ROSAT calendar images 1997, X-ray Sources of the ROSAT All-Sky Survey
図 4 Copyright (c) 1993, 1994, Association of Universities for Research in Astronomy, Inc.
図 5 Mori et al., Suzaku Observations of Unidentified X-Ray Sources toward the Galactic Bulge, Publications of the Astronomical Society of Japan, Vol.64, No.5, Article No.112, 1 pp. Figure 1


専門家向けセミナーのサイトにスライドがあります。 (文:素粒子宇宙起源研究機構広報室 木村久美子)