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柳哲文さんが第31回(2026年)日本物理学会論文賞を受賞しました

2026.03.30
ニュース / トピックス
受賞

名古屋大学理学研究科/素粒子宇宙起源研究所(KMI)の講師の柳哲文さんが、第31回(2026年)日本物理学会論文賞を受賞しました。受賞対象となった論文は「Primordial black hole abundance from random Gaussian curvature perturbations and a local density threshold」(Prog. Theor. Exp. Phys. 2018, 123E01)で、これまで不確かさが避けられなかった原始ブラックホールの質量分布の理論的計算手法に対し根本的な改善をもたらし、宇宙論・初期宇宙物理学において極めて重要な科学的貢献を果たしていることが評価されました。

原始ブラックホールとは?

原始ブラックホール(Primordial Black Hole; PBH)とは、星の一生の最終段階として生まれる通常のブラックホールとは異なり、初期宇宙における揺らぎがそのまま重力崩壊してできるブラックホールの総称です。暗黒物質や、さまざまな質量におけるブラックホールの起源として近年多くの注目を集めています。とくに2015年のブラックホール連星合体からの重力波の初検出以降、その重要性が再認識され、理論・観測の両面から研究が飛躍的に発展しています。

観測との比較に不可欠な「PBH質量分布」の理論予言

PBH形成において、もっとも盛んに研究されている標準的シナリオは「宇宙初期の輻射優勢期に原始揺らぎが重力崩壊を起こす」というものです。受賞論文もこの標準的なシナリオを前提に、インフレーションなどによって生成される原始揺らぎを素として形成されるPBHの存在量を定量的に見積もる理論的な手法を提案しています。
それまで広く用いられてきた見積もり手法には、理論的な裏付けが十分でない近似や飛躍が含まれていることが知られていました。その意味で、受賞論文は、PBHの存在量を理論的に確かな方法で見積もることに成功した初めての研究として位置付けられています。どのような観測結果と比べる場合でも、信頼できる理論的予言がなければ意味をもちません。PBH研究の発展において理論と観測を結びつける上で重要な役割を果たす研究成果として評価されています。

飛躍的な深化をもたらすブレイクスルー

本論文の革新性は、重力崩壊ダイナミクスの本質と、原始揺らぎの統計的な性質の双方を、理論的に一貫した形で取り扱った点にあります。まず、数値相対論を用いた非線形重力崩壊現象の解析結果を取り入れることで、精度が高く、重力崩壊現象の本質を的確にとらえたPBH形成条件を理論に組み込むことに成功しました。さらに、 原始揺らぎに対してピーク統計理論を丁寧に適用することで、PBHになる揺らぎのピーク数を原理的に見積もることを可能にしました。
受賞論文の発表以降、正確なPBHの存在量の予言を必要とする研究においては、ピーク統計を用いた見積もりが不可欠であるとの認識が広く共有されるようになっています。また、初期揺らぎやPBHの統計的性質をピーク理論を用いて扱う派生的な研究も多数生まれており、受賞論文が分野全体に飛躍的な深化をもたらしたブレイクスルーとして高く評価されています。

受賞者コメント

論文賞をいただけて、共同研究者ともども非常に光栄に思っています。審査員や本論文を推薦していただいた方々に深く感謝いたします。
この研究は、それまでの問題点を解決すべく、各分野で既知の事柄を、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら丹念に組み合わせた結果できあがったもので、その過程はパズルを解いているようで、とても楽しかった記憶があります。
重要な成果だと思ったので、論文賞を期待して、下心を持ってPTEPに投稿しましたが、その後8年近く経過し「そううまくはいかないな……」とほぼ諦めていたところでの受賞となり、感慨深いものがあります。この8年間を振り返り、受賞に値するような研究者として十分に活動できたかと問われると、正直なところ自信があるとは言えません。しかし、立派な賞をいただいた以上、せめて賞の名を汚して後ろ指をさされることのないよう、日々精進してまいります

受賞対象の論文

  • 論文タイトル: Primordial black hole abundance from random Gaussian curvature perturbations and a local density threshold
  • 著者: Chul-Moon Yoo, Tomohiro Harada, Jaume Garriga, Kazunori Kohri
  • 掲載誌: Prog. Theor. Exp. Phys. 2018, 123E01
  • DOI: https://doi.org/10.1093/ptep/pty120

日本物理学会論文賞

日本物理学会論文賞は、日本物理学会が、独創的な論文の発表を通じて、物理学の進歩に重要な貢献を果たした研究者の功績を称えるために制定した賞です。1995年に制定され、1996年以降、毎年授与されています。受賞論文は例年1月に発表され、表彰式は日本物理学会年次大会の場で行われます。


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