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井黒就平さんが第20回(2026年)日本物理学会若手奨励賞を受賞しました

2025.12.04
ニュース / トピックス

名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)/高等研究院(IAR)の特任助教の井黒就平さんが、日本物理学会の第20回(2026年)若手奨励賞(素粒子論領域)を受賞しました。受賞対象となった業績は「ボトムクォークからチャームクォークのセミレプトニック崩壊の精密予言の実現と重いクォーク対称性に基づく厳密な和則の発見」で、精密な理論計算と普遍的な物理法則の発見を通じて、新物理を探る研究基盤を築いたことが高く評価されました。

フレーバー物理とは?

素粒子にはいくつかの種類があり、これを「フレーバー」と呼び、これらの粒子の個性や素粒子が崩壊するときなどにフレーバーが移り変わる現象を扱う研究領域を「フレーバー物理」と呼びます。フレーバー物理は、素粒子の標準模型を超える新物理を探索する重要な手段であると期待され、国内外で前人未到の精度を目指す実験が進行中の研究分野です。井黒さんが取り組んでいるのは、ボトムクォークがチャームクォークへと崩壊する「セミレプトニック崩壊」の現象で、新物理探索の最前線です。

精密計算で「新物理の物差し」を磨く

新物理の存在を確認するためには、まず「標準理論で予測される値」を極めて正確に計算し、実際の実験結果と比較する必要があります。もし両者にズレがあれば、それは新物理の兆候かもしれません。井黒さんたちは、過去のBelle 実験などで得られた高精度の崩壊データを用いて、B中間子の崩壊現象を記述するために重要な要素である「形状因子」を詳細に分析し、その精度を大幅に向上させました。

新物理に依存しない「厳密な和則」の発見

素粒子が崩壊する確率の間には、さまざまな粒子の崩壊を結びつける「和則(sum rule)」と呼ばれる関係が経験的に知られていました。井黒さんたちは「重いクォークの対称性」という、ボトムクォークなどの重い素粒子が持つ普遍的な性質に着目し、この対称性の極限において、和則が厳密に成り立つことをはじめて証明しました。
この関係は、新物理のモデルに依存しない普遍的な法則であり、将来得られる高精度・高統計な実験データで「理論計算と実験結果が矛盾してないか」をチェックするための信頼できる基準となります。

新物理発見への道標

素粒子分野で新物理の兆候を探るためには、精密な実験データと、それを裏付ける緻密な理論計算の比較が不可欠です。井黒さんの一連の研究は、新物理探索に向けた重要な知見を理論・実験の両面から提供しました。今後の加速器実験(とくにBelle II実験)での新しい物理の発見に向けた理論的な道標となることが期待されます。

受賞者コメント

井黒さんは次のようにコメントしています。

「賞をいただけたことはとても光栄です。特にJHEP 05 (2025) 112 の研究では、、ここ数年研究者の中でぼんやりと想像されていたものの、明確に定式化できていなかった概念を数式で証明でき、とても快感でした。この発見が研究に新たな切り口を与え、多くの関連研究へと広がったことをを嬉しく思います。今回の受賞に当たり、貴重なお時間を割いてくださった審査員をはじめとする関係者の皆様や、原論文の共著者である遠藤基さん、渡邉遼太郎さん、三島智さん、および関連研究に携わってくださったTim Kretzさん、Martin S. Langさんに深く感謝いたします。今後も心踊るような研究を続けていきたいと思います。」


日本物理学会若手奨励賞

日本物理学会若手奨励賞は、将来の物理学を担う優秀な若手研究者を支援し、その成長と活躍を後押しすることで学会全体の発展につなげることを目的として、2007年に創設されました。受賞対象は、各専門分野(領域)でとくに優れた研究成果をあげた若手研究者であり、これまでの学術論文や学会発表が評価の基準となります。この賞を通じて、次世代の物理学を担う人材を育成し、研究コミュニティの活性化を図っています。


受賞対象の論文

  • Bayesian fit analysis to full distribution data of B -> D* v Vcb determination and new physics constraints”, S. Iguro, R. Watanabe, JHEP 08 (2020) 006

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