ベラ・C・ルービン天文台の始動に名古屋大学の研究者も協力

ベラ・C・ルービン天文台は、世界最大のデジタルカメラによる観測画像を2025年6月23日(現地時)に初公開しました。今後、このカメラを用いた大規模撮像探査プロジェクト「LSST(Legacy Survey of Space and Time)」が本格的に始まります。LSSTには、名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)や国立天文台の研究者を含む日本の研究者も多く参加しており、これから、すばる望遠鏡との連携による新たな科学成果が期待されます。
NSF-DOEベラ・C・ルービン天文台(以下、ルービン天文台)は、米国が主導し、南米チリ共和国のセロパチョン山に建設された次世代の天文観測施設です注1。口径8.4メートルの光学赤外線望遠鏡と32億画素の「LSSTカメラ」の組み合わせは、8メートルクラスの望遠鏡としては最大の視野を持ち、満月45個の広さに相当する範囲の空を一度に観測できます。
LSSTカメラを用いた大規模撮像探査プロジェクト「LSST」は、2025年後半から10年間にわたり、可視光線から近赤外線の波長域で南半球の空全体(約2万平方度)を繰り返し撮像し、データを蓄積します。この壮大で野心的な計画から、太陽系小天体、銀河、超新星、ダークマターなど、幅広い分野での新たな発見が期待されています。
この国際的なプロジェクトに、日本の研究者も積極的に参加しています。日本の研究グループは、特に、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム、HSC)によって広視野撮像探査で世界をリードしてきました。その経験と実績、さらにすばる望遠鏡の観測時間の提供も含めた貢献が評価され、LSSTの貢献メンバーとして認められています。名古屋大学からは宮武広直(みやたけ ひろなお)准教授をはじめとした研究者らが参加、国立天文台からは、宮崎聡(みやざき さとし)教授、内海洋輔(うつみ ようすけ)准教授をはじめとした研究者らがLSSTに参画しています。宮武准教授はHSCにおける宇宙論解析の経験を生かし、LSSTのデータ解析で重要になる系統誤差の精査を行うなどの貢献を行ってきました。このような貢献により、日本の研究者コミュニティは審査の上で優先データアクセス権を取得していて、今後の LSST を見据えた研究を開始しています。
すばる望遠鏡では、2025年から名古屋大学の砂山朋美客員研究員が宇宙論解析チームの共同代表を務める超広視野多天体分光器PFS(Prime Focus Spectrograph、プライム・フォーカス・スペクトログラフ)の運用が始まりました。撮像探査に特化したルービン天文台と、超広視野分光という新たな力を備えたすばる望遠鏡との連携で、天文学の新たな地平が切り開かれようとしています。
名古屋大学の宮武准教授は、「LSSTの主要な目標の一つは、星や銀河の形成に欠かせないけれども正体不明の暗黒物質、宇宙の加速膨張を引き起こす暗黒エネルギーの謎を解明することです。そのために米国をはじめとする世界中の研究者と準備研究を進めてきました。また、PFSを用いた分光観測はLSSTにおけるデータ解析をより精密に行うために不可欠です。この膨大なデータを緻密に解析することで、人類の知識の地平線を広げることができると確信しています。」と述べています。
また、国立天文台の内海准教授は、「LSSTの観測開始は、超広域サーベイ天文学、時間領域天文学にとって画期的なマイルストーンです。私自身、15年以上前にHSCの開発に参加し、現在はLSSTの一員として携わって8年になります。20年以上にわたる技術的進展と、すばる望遠鏡およびアメリカを中心としたコミュニティによる国際的な協力の積み重ねが、この新たな人類の「目」を生み出したことに、深い敬意と誇りを感じています。今後、LSSTがもたらす新たな発見と科学の扉の広がりを楽しみにしています」と語っています。
Note
- 注1. NSF-DOE ベラ C. ルービン天文台は、米国立科学財団(NSF)および米国エネルギー省科学局(DOE Office of Science)の支援により、設立・運営されています。


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