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【研究成果】物理定数の背後に未知の力がひそんでいる可能性を指摘

2023.04.11
研究成果
©️竹内希/KMI

物理定数と呼ばれる自然界の基本定数の値が、新しい素粒子や未知の力によって影響を受ける可能性があることが、名古屋大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)のクロスアポイントメントである北原鉄平特任助教(素粒子宇宙起源研究所(KMI)・高等研究院・素粒子原子核研究所)らからなる国際共同研究グループ(日本、フランス、オランダ、イスラエル、米国)による研究によって明らかになりました。本研究成果は、2023年3月24日付アメリカ物理学会の学術誌「Physical Review Letters」に掲載されました。


素粒子標準模型は、素粒子がどのように振る舞い、相互作用し、最終的に原子核、原子などの大きな構造を形成するかを予測します。多くの場合、標準模型の予測は素粒子、原子核、原子に関するさまざまな精密な測定結果と一致することが分かっており、現在のところ非常に成功した理論として知られています。しかし、最近のいくつかの実験結果は、まだ発見されていない未知の新しい物理法則(新物理)で説明できるかもしれない挙動を示唆しています。

標準模型をはじめとする理論モデルは、自然界の物理法則を反映した数式を内包するように構成されています。この数式に不可欠なのが、電子の質量や光速などの値、すなわち「物理定数」です。これらの物理定数は、標準模型の予測とさまざまな精密実験の結果ができるだけ一致するように定期的に調整されています。この調整はCODATA(科学技術データ委員会)によって数年ごとに繰り返されています。この時、自然界の物理法則として標準模型は厳密に正しいという前提のもと調整が行われます。

本研究では、標準模型を超えた新しい素粒子や未知の力を想定した場合、この前提が崩れる可能性があることを指摘しています。そして、物理定数の調整と新物理の探索を同時に矛盾なく行うことができる新しい枠組みを詳細に議論しました。

さらに、CODATAの調整の中で、いくつかの精密実験のデータ(例えば陽子半径や水素の2S・8D遷移)が標準模型の予測と完全には一致しないことが知られています。本研究は、提案した新しい枠組みを用いることで、未知の力を加えることによりこれらの不一致を修正できることを指摘しています。この未知の力として、例えば新たなヒッグス粒子を導入することで得られる6種類の新物理模型について検討を行いました。驚くべきことに、そのうちの1つの模型において、CODATAの調整の中に見られた不一致が解消されました。同時に、この未知の力の存在によって、既存の物理定数のいくつかの真の値が現在のCODATAの調整値から大きくずれている可能性が浮上してきました。

北原鉄平特任助教は

誤解を恐れずに言えば、これまでは標準模型を前提にして決めた物理定数をもとにして新物理を探してきました。この研究結果は、もし新物理が本当にあるとすればこの普段の新物理探索の枠組みが信頼できなくなるかもしれない、ということを示しています。この研究の価値は、現在物理定数を決めるために使われている精密測定を、新物理を探すためにも使えるように枠組みを整理したことにあります。ただし、今回の研究結果から直ちに新粒子の発見と解釈してはいけません。素粒子の加速器実験による測定データには、私たちが提案した仮説の新物理を否定するものがあります。

とコメントしています。

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