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第4回:超弦理論ー行列模型でみえた超対称性の自発的破れ(2014年2月)

2014.01.14
スポットライト

 素粒子奨学会2013年度(第8回)中村誠太郎賞(受賞論文:Spontaneous supersymmetry breaking in noncritical covariant superstring theory)を受賞されたKMI基礎理論研究部門弦理論・数理構造部の黒木経秀特任助教にお話をうかがいました。

ー ご受賞おめでとうございます。

ありがとうございます。

ー 最初に、なぜ弦理論が必要なのか教えていただけますか?

 宇宙全体を扱う相対性理論と極小の世界を扱う量子力学を一緒に考えようとすると、くりこみ不可能という、理論としての矛盾があることがわかっています。このことは、これらの理論がまだ完全ではなく、その背後にさらにこの二つの理論を統合する究極の理論があることを意味しています。そこで、相対性理論と量子力学を統合する理論の最有力候補として考えられているのが、弦理論です。弦理論は、宇宙のあらゆる物質、力の根源、それらがすべて弦の振動によって生ずるとする理論です。

ー 受賞理由に「行列模型と超弦理論との等価性」とありますが?

 大雑把に言うと、弦理論の基本的自由度は弦ではなく、行列だと仮定して、弦理論を作り替える試みです。実際、非常に特殊な弦理論に対しては、行列を使った記述が正しいことが知られています。無限大の大きさの行列を用意して、その中にどのように私たちの宇宙、私たちの構成要素が実現されているかを考えるというアプローチです。非常に大雑把に書くと図1のようになります。

図1:宇宙をも含む無限大の大きさの行列

 弦理論は宇宙の時空構造を私たちに教えてくれ、超対称性(後述)を持った弦理論では時空は10次元であると一意的に導かれます。
私たちの宇宙では、10次元が4次元(空間3次元と時間)になっていています。
時空の残りの6次元が、いかに見えなくなっているかについて、色々考えられてはいますが、どれも人工的です。

ー 宇宙が10次元…?

 はい、弦が住んでいる時空の次元自体は10次元で決まりですが、そのうち何方向が「広がっている」か、のチョイスは様々です。図2のように、10個の方向のうち、6方向が目に見えないくらい小さく、残りの4方向が大きく広がっていれば、そこの住人にとっては、私たちのように、世の中が4次元に見えることでしょう。ですが、もし10個の方向全部が見えていたら、宇宙は10次元に見えることでしょう。この「小さくなっている方向は10個のうち何個か」、というのを決める基本原理が知られておらず、どの可能性も起きるように思えます。今現在、超弦理論で許される宇宙は、0次元に見える宇宙から10次元に見える宇宙まで無数です。

図2:10次元のうち4次元方向だけが広がっていて、6次元方向は小さい状況のイメージ図。10次元を平面に描くことはできないので、いくつかの方向をなくした図を描いています。私たちは板のようになっている4次元の上に住んでいます。

ー 宇宙って、いっぱいあるのですか!?

 それもむずかしくて。研究者によって意見はわかれます。
ボクは楽観的なので、弦理論をきちんと定式化すれば、この世だけということになって欲しいと思っています。

 弦理論のような究極理論の構成に人為性があると、今度は「なぜその人為性が選ばれたのか」を説明する必要が出てきてしまいます。弦理論特有の効果によって、人為的ではなく、「自然に」対称性が破れた状態が選ばれる、という現象が「自発的に破れる」というものです。この現象では対称性が高い状態から自然にそれが破れた状態が生ずるため、人為性もなく、とても美しく感じられます。

ー 『美しさ』、ですか。

 宇宙ができたときは、対称で美しい。

 その対称性が破れて、今の宇宙になったはずですが、人為的に破り今の宇宙を導くのではなく、自然に私たちのこの宇宙が導かれるのが美しいですよね。

ー 受賞理由には「非摂動効果により時空の超対称性が破れる初めての例を与える」ともありますが?

 宇宙ができたときにあったいろいろな対称性が、今は、なくなっています。
 例えば、超対称性(超対称性とは:ボゾンにはフェルミオン、フェルミオンにはボゾンのパートナーがいて、パートナーと入れ替えられる対称性)。
超対称性があれば、パートナーであるボゾンとフェルミオンの質量は同じです。同じ質量にパートナーは見つかっていないので、今の宇宙にはこの対称性はありません。しかし、超対称性をもたせた弦理論(超弦理論)は一般に安定であり、弦理論は超対称性を持っていた方が自然なので、宇宙ができたときには、超対称性があったと考えられます。対称性についても人為的に破る例はありますが、自発的に破れている例はありませんでした。

 研究方針として、とにかく次元でも、対称性でも自発的に破れる例を見つけたいと思っています。そこでまず、2次元で超対称性が自発的に破れている例を見つけることができました。

ー 超弦理論の難しさとは?

 2段階の難しさがあります。
まずは、理論の定式化。
次に、それを解くこと。
両方とも滅茶苦茶難しい。

ー 今後の研究の目標は?

Theory of Everything! 
(4つの相互作用 – 重力、強い力、弱い力、電磁力 -、時空、物質の統一)。

KMI基礎理論研究部門弦理論・数理構造部の黒木経秀特任助教

参考文献

[1] T. Kuroki and F. Sugino,
“New critical behavior in a supersymmetric double-well matrix model”,
Nucl. Phys. B867 (2013) 448 [arXiv:1208.3263 [hep-th]].

[2] T. Kuroki and F. Sugino,
“Supersymmetric double-well matrix model as two-dimensional type IIA superstring on RR background”,
arXiv:1306.3561 [hep-th], to appear in JHEP.

[3] M. G.~Endres, T. Kuroki, F. Sugino and H. Suzuki,
“SUSY breaking by nonperturbative dynamics in a matrix model for 2D type IIA superstrings”,
Nucl. Phys. B876 (2013) 758 [arXiv:1308.3306 [hep-th]].

専門家向けセミナーサイトにスライドがあります。
(文:素粒子宇宙起源研究所広報室 木村久美子)