研究プロジェクト: 名古屋大学 素粒子宇宙起源研究機構(KMI)

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対称性の破れとゲージダイナミックス

研究の背景と目的

対称性とその破れは現代素粒子論の最も基本的な概念である。標準模型においてはゲージ対称性が本質的であり、すべての素粒子の質量は対称性の自発的破れとして生成される。CP対称性の破れに関する小林・益川理論もクォークの質量の存在が前提であり、質量の起源と密接に関わるものである。質量の起源は現代素粒子論の当面する最大の課題であり、超大型加速器実験LHCの主要なターゲットとなっている。

本研究課題では素粒子物理学におけるあらゆる対称性とその破れを、とくにその力学的起源についてゲージダイナミックスを通じて探求する。対称性の破れの有効理論である非線型表現は、超対称理論の枠内での研究や超対称性そのものの非線型表現の研究に至っている。非線型表現は「隠れた局所対称性」の理論としてさらに発展している。対称性の破れを下部のゲージダイナミックスで力学的に生成する仕事はテクニカラー理論に適用され、コンフォーマル対称性(スケール不変性)をもつゲージダイナミックスに基づく「ウォーキングテクニカラー」として発展している。「ウォーキングテクニカラー」は結合の強さのスケール依存性(「ランニング」の度合い)がほとんどなくて「ウォーク」するという意味で名付けられた。

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名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構(以下「機構」)に新たに導入された専用の高速並列計算機を用いて、解析的研究と数値実験の両面から対称性の破れとゲージダイナミックスの研究を集中的に展開する。これにより標準模型を超える新しい理論の発見と検証を目指す。

研究の方法

素粒子模型の探索のため、様々な対称性の破れの帰結を研究する。関連するゲージダイナミックスを探るため、機構に導入された専用並列計算機を駆使して、「大Nf-QCD」など通常のQCDとは異なるコンフォーマルなゲージダイナミックスの格子上での数値実験を行う。これを(隠れた局所対称性を含む) "カイラル摂動論" と併用することによりさらに威力を高める。これらに基づく素粒子模型を今後本格化する超大型加速器LHCでの実験で検証することを目指す。

期待される成果と意義

対称性の破れに関する研究は、2008年ノーベル物理学賞に象徴されるように日本の独創が世界をリードしており、質量の起源に関するゲージダイナミックスの研究についても我々の研究を基盤に発展している。数値実験と併用することによりこの指導性をさらに高めることが期待される。広範に行われている通常のQCDの数値実験とは異なり、主要ターゲットは自ら提唱したコンフォーマルなゲージダイナミクスであり、従来の定性的分析を併用しつつLHCでの実験的検証を見据えた数値実験による定量的な結果を出すことで、革命期を迎えた素粒子論において世界をリードすることが期待される。

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