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[研究成果]雷放電からの強烈なガンマ線放射を地上で観測

2019.09.06

Thunderstorm near Pritzerbe (Germany) by Mathias Krumbholz

Thunderstorm near Pritzerbe (Germany) by Mathias Krumbholz

 

東京大学理学研究科の和田有希博士課程学生、京都大学白眉センター榎戸輝揚特定准教授、名古屋大学 KMI 中澤知洋准教授、東京大学カブリ IPMU牧島一夫上級科学研究員 (東京大学名誉教授) らの研究グループは、雷放電と同時に放射された瞬間的で強力なガンマ線フラッシュを、新潟県で運用している放射線検出器で測定することに成功しました。本成果は米国物理学会の速報誌Physical Review Letters87 (日本時間) オンライン掲載されました。

 

1990年代に、雷放電と同時に、0.1ミリ秒というごく短時間に高いエネルギーの光子(ガンマ線光子)が多数到来する場合があることが、人工衛星からの観測で分かりました。「地球ガンマ線フラッシュ」と呼ばれるこの現象は、これまで見過ごされてきた強力な粒子加速の仕組みによって、雷雲の中で電子が高エネルギーまで加速されている証拠です。研究グループは、冬季の日本海岸では地上からもこのガンマ線が観測できることに注目し、2006年から観測研究を続けてきました。

新潟県柏崎市の東京電力柏崎刈羽原子力発電所内に研究グループが設置した検出器が、20171124日に、「ガンマ線フラッシュ」を捉えました。衛星から観測される「上向きフラッシュ」と対比して、地上向きに放射される「下向きフラッシュ」が起きたと考えられます。高度 500 kmの彼方にある人工衛星と異なり、この検出器は雷から数キロメートル以内の地上にあるため、極めて大量のガンマ線が到来したと考えられます。研究グループの高感度検出器は暗い放射への測定能力が高く、フラッシュが起きた時刻を正確に記録し、雷放電と一致することは確認できましたが、肝心のフラッシュそのものの強度については「極めて強い信号がきた」ことしか捉えられませんでした。一方で、東京電力の運用する高感度と低感度(明るい放射の測定能力が高い)の検出器のうち、後者でこの信号を定量的に捉えることに成功しました(図を参照)。今回、「下向きフラッシュ」を地上で精密に測定できたことで、衛星観測と比べて複数の測定器を容易に設置できる地上観測で、地球ガンマ線フラッシュの研究を有利に進められることを示したものです。

 

測定された地上での放射線量は最大で1.4 マイクログレイとかなり強いものでした。胸部X線レントゲンの0.1回分よりも少なく、一地点では年に一度あるかないかなので、人体への影響はないと考えられます。遥かな昔から人類は雷ガンマ線とともに暮らしてきたわけですが、放射線の存在が知られるようになってから100年以上も経って、やっとこの「ガンマ線フラッシュ」を定量的に観測できたのです。

大変身近な現象であるにも関わらず、雷ガンマ線の研究は始まったばかりで、数多くの「新発見」をもたらしてくれています。実は20171月の観測では、この「下向きガンマ線フラッシュ」の強力なガンマ線により、大気中の原子核が破壊され、中性子や陽電子が発生していることもわかっています(Enoto et al. Nature 2017)。しかし、「雷雲の中のどこで、どのように、電子が加速されているのか」、「原子核反応は、どれほどの規模で起きているのか」、そもそも「ガンマ線フラッシュ」はどれだけの数がどれだけの強度で起きるのか、さらには「航空機が雷雲の近くを飛ぶ時、その放射線量はどのくらいに達するのか」、こうした謎を探るために、今後も観測を充実させてゆきます。地上観測に加えて、来年の春には、フランスから雷ガンマ線の専用観測衛星TARANISが打ち上げられる予定で、名古屋大学もこれに参加しています。

 

名古屋大学 KMI 中澤知洋准教授

地球ガンマ線フラッシュがもたらす地上での放射線量
地球ガンマ線フラッシュがもたらす地上での放射線量
東京電力柏崎刈羽原子力発電所に設置されている9台のモニタリングポスト・高線量計で計測された地上での放射線量。高い放射線量が測定された周辺で地球ガンマ線フラッシュが発生したと推定される。国土地理院地図を用いて作成。 © 2019 和田有希
関連リンク

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論文情報

Physical Review Letters (8月7日 123巻、(2019)、061103, “Downward Terrestrial Gamma-Ray Flash Observed in a Winter Thunderstorm”

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